歯医者の仕事は、患者さんの口のなかに証拠が残ります。口の中はなかなか見えない、見ないところだからといって、ウソは通らない。歯医者さんでの治療は、口の中という密室で行われる、そして患者さんには治療の良し悪しはなかなかわからないものです。
しかも普段、口のなかはあまり見えません。そこで、どれだけいい仕事ができるかは、もう職人としてのプライドというかこだわりです。密かにいいことをするか、どうせ見えない、よく見ないからといっていい加減な治療をするか。
でも当然ですが、いい仕事をしても、いいかげんな仕事をしても、どちらもごまかしようがなく、はっきりとあなたの口の中にあり続けるものです。患者さんをごまかせても、プロだから治療の良し悪しは自分で分かる。やっぱりいい仕事ができれば、自分も嬉しいのです。
まず治療の質にこだわる。
派手ではなくとも相手のためになり、喜んでもらえることを一番大切にしたいと思っています。
競争に明け暮れている人は、少しも晴れ晴れとした顔をしていないような気がします。
自分の頭で考えることはたしかに大変なことです。では世間の常識や、他人の価値観で生き、仕事をしていれば楽なのかというと、実は反対に苦しいことだと思います。
幸せや人生の価値は、全部自分で決めるものです。
そのことに気付いたとき、私たちの人生はまったく違ったものに変わると思うのです。
しかし、正しいと信じることを、本当に実践するのは案外勇気がいることです。
私も、歯科の現場で、実際に患者さんを診ながらも、自分のやっていること、歯科の現状、国の保険制度など疑問に感じることがいくつもありました。でもそこで、私は人間として、歯科医師としてどう在りたいのだろうかということを自問しました。
そのきっかけとなったのが京セラの創業者である稲盛和夫さんの言葉だったのです。彼の教えに共感し、目が覚める思いがした経験が、今の私を創っているといっても過言ではありません。そして、自分がよいと思うことを、自分が少し損をしてでも患者さんのためにしていこう、患者さんに喜んでもらえる、地域の人々の役に立つ歯科医になろうと決意しました。
そうすると、なんだか自然体で生きられるようになりました。自分が治療したことで、患者さんが笑顔をみせてくれたり、喜んでくれたりすることが、こんなにもうれしいことだったのかと改めて気付けるようになりました。なんといっても患者さんに喜んでもらうために、自分の治療の質にとことんこだわるようになり、技術も知識も、そして経験を大事にするようになりました。
私が心をこめて行った治療の質がどんどん向上していくことで、患者さんの歯なんですけど、なんだか自分の作品のように、芸術家のような意識も生まれてきました。
私は、私自身が心からよいと思える生き方を、歯科治療という仕事を通じてこれからも実践していきたいと思います。
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