医学・薬学の研究が進み、病気の大半は環境や生活スタイルからくることが明らかにされつつありますが、実際にやっているのはマニュアル治療で、医者は患者の生活スタイルはおろか、患者の顔すら覚えていないという状況が多いのではないでしょうか。
私は歯周病が専門でもありますが、専門的に取り組んでいくほど「歯周病を治す」というのは非常に難しいことが分かってきます。そこをすっ飛ばして「インプラント」をしても結局、患者さんにとって根本的な解決にならず、かえって悪い結果になってしまうでしょう。むし歯をいい加減に削っていい加減に詰め物をしてもまたすぐに悪くなります。歯の根っこの治療がきちんとできていないのに立派なかぶせ物をしても中が膿んでしまったりして大変なことになりかねません。なんでもそうですが、「土台」や「基礎」がいい加減なのに、うわべだけきれいに取り繕ってもろくな結果にはならないでしょう。
しかし、実は歯医者自身が意図的にそういういい加減な治療をすることで、「おいしい思い」をしていたという時代もありました。つまり、治療しても「長くもたない」「またしばらくすると悪くなる」ことで、再治療、再治療を繰り返せば歯医者は収益が上がるというわけです。「歯科治療の7割は、以前処置したところの再治療」という話もあるくらいですから、本当にそんなことをやっていたわけです。
やはり、「なぜ歯をうしなってしまったのか」という問いが患者さんにも、医療者の側にもなく、その場しのぎで目先の利益だけを考えてしまいがちです。深く考えることなく「夢のような治療法」に飛びついてしまうのです。そうなればなるほど本質からは遠ざかってしまうのではないでしょうか。ここでよく考えなければいけないのは、医療者は病気を診るのではなく、あくまでも人を診るということであり、歯科医とてそれは同じだということです。
これはなにも高度医療だけの特別な「自分には関係のない話」ではありません。すべての歯医者が歯を削る機会があるでしょう、あなたも歯医者さんで歯を削ってもらった経験があると思います。そうすれば必ず「かみ合わせ」を触ることになりますが、「削る」ことも「かみ合わせ」を調整することも、とてもあいまいな分野です。どういう角度でどのくらい削るのか、前後左右上下に動く顎と歯の関係、力のかかり方など、どうかみ合わせを診るのかは非常に奥が深いものです。「ちょっとしたむし歯を治す」のも実はものすごく高度な治療であると考えても、考えすぎではありません。
このように歯科ではすべてにおいてかみ合わせがかかわってきます。歯科治療で最も大事なもののひとつです。知識と、経験の伴った診断力、高い技術も要ります。咬み合せひとつで心身の不調をきたすことがありますから、安易に考えたり、いい加減に触ってしまうのは健康にとってのリスクは大きいのです。
歯は全身の一部であって、大がかりな治療というのは歯と言えど大変な外科手術と同等のものといえるほど、心身への影響を考慮すべきだと思います。
でも昨今の歯医者といえば、「大掛かりなことをしなければ儲からない」、「利益効率が悪い」というのでインプラントや矯正治療を喧伝し、自費治療が良い治療であるという論理をまことしやかに語っている面もあるかもしれません。
ここでは個別の治療科目についての良し悪しを述べたいわけではなく、患者さん自身も医者まかせにしないで賢い選択をしてほしい、医療に携わる者も、本来的に患者さんのためになる情報を伝え、実践していかなければいけないということです。
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