一個の人間として、歯科医師として、自己を欺くような仕事をしていたら、患者さんの役に立つ良い治療などできないでしょう。また、他人を欺き、いい加減な治療をしていたのでは、自分だって幸せになることなどできません。
患者の不利益に目をつぶってまで利益を出そうとする医院の存在意義などいつまでも認められるはずがありません。もちろん不誠実な、質の悪い治療をされて困るのは患者さんです。でもそれが必ず歯科医の側にも跳ね返ってきます。それで本当に困るのは生活者であり、そんな仕事をしていれば歯医者自身が歯科の仕事の価値を下げ、自分で自分の首を絞めることに加担することになっていきます。そうすると、歯科全体も良くならず、日本人は口腔の健康からますます遠ざかって元気がなくなっていく。
自分さえ良ければそれでいい、ということではないのだ、ということを真剣に考える必要があると思うのです。
私は、あらゆることは全部がつながっていると考えるのが自然な気がします。患者の利益を損なわなければ歯科医院が生きていけないような構造はどこかで必ず崩壊するのではないでしょうか。
社会が成熟し、心とか感性が大事、質を重視し、個性的なホンモノが活きる時代と言われます。一方で企業や医療の不祥事のニュースが流れない日はなく、人間のあり方を問うような問題が噴出しています。事実なのは、どちらも人間の営みには違いないということです。歯科の分野でも例外ではありません。
たしかに歯科業界は構造的に大変で、どの先生も苦労されています。しかし、いい歯医者さんが現実の壁に屈してしまい、生活者がいい治療を受けられないのであれば、それは大きな問題です。歯や口から人を健康にできるのは、歯医者さんしかいないのですから、歯科医もそれを誠実に実践し、患者さんに伝えていく努力をしなければいけません。
最近は特に天災が多発しているような気がしますが、たとえば地震について考えてみましょう。地震は確かに恐ろしいものですが、人間は地震で直接死ぬわけではありません。道路が割れたり、橋が折れたり、建物が崩れたり…。ほとんどの原因は人間が作ったモノに由来しています。天災に対して、人間ができることなど知れています。
でも、モノを作り、人々に供給することを仕事とし、それで生かされている立場の経営者や人達が、意識的な努力を実践していくことで防げたことがあったとしたら…。これは本当に残念なことです。あなたの口の中だって、それと同じことかもしれません。歯医者さんにいけばいくほど、歯が減っていき、悪くなってしまったとしたら・・・。
私のできることなど微力なものかもしれまえせん。一人の歯科医が診ることのできる患者さんの数はおのずと限られています。それでも、わたしのできうる範囲で、誠実に、精一杯の治療をしていくことで、健康を求めるすべての人にとって歯医者さんが大事な存在に変わる世の中を、実現したいと思っています。
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